2017.9基調講演(富田欣和先生)

概要

富田先生は、元々は、起業家です。
起業して20年のコンサルティング業を営んでおられます。
そのずっと前に、多額の借金を抱えた家業があったそうです。
それを富田先生が担うことになったそうですが、このときに支えになったのが、古事記だったと。
会社で起こる現象の逐一をもぐら叩きのように叩くとしんどいことです。対処療法ではどうにもなりません。
根本的解決をやらなければならない。そう思い、根本を探っていったときに辿り着いたのが、神話だったそうです。
みな根本的なところは同じであるはずなのに、行動や感じ方が異なるのはなぜかというところを突き詰めてみようと手にしたのが「古事記」でした。
 
古事記に書かれている「知恵」について。
富田先生は、危機的状況になっても、ブレるところなくいられたのは、古事記の知恵が支えになっていることは間違いないと言います。
先が見通せないところでどうしていくのか。先が見通せないときの「軸」として、古事記は大変有用です。

 
 
●和の心とは何か。古事記によると、それは3つの心でできています。

今の中3生が社会に出たときに持つ友だちの半分は、日本人ではないでしょう。
そういう人たちと渡り合えるためには、知恵と教養が必要です。
そして、異文化を理解する上で、神話を知っておくことはとても重要なのです。
では、和の心とは何か。それは、次の「3つの心」のことです。
     1.素直な心
     2.思いやりのある優しい心
     3.困難に挑戦する心
この3つの心をバランスよく育てていくというのが、古事記の中で育むべきエッセンスです。
漢意(からごころ)・大和心(やまとごころ)ということばがあります。
漢心とは、本質に付着した飾りのことです。
見栄や虚栄心などの外側に付随してしまっているノイズのようなもののことです。
他方、大和心とは、あるがままの心、本質に付着した見栄や虚栄心を取り除き、あるがままの心で生きよというものです。
この3つの「大和心」を兼ね備えた人が失敗するイメージってありますか?先生は、次のように解説します。
どれか1つだけが突出すると、
     1.素直な心⇒ YESマン
     2.思いやり⇒八方美人
     3.挑戦心⇒自己中心
ということになるそうです。
先生は、困難に対峙したとき、この3つを常に心の中で唱え続けていたそうです。
 
この3つの中で、自分は、どちらかというとこれだな、というのはどれか考えてみてください。
そして、次は逆に、正直、これは意識していないな、というのはどれですか?
どれが強くて、どれが弱いかをよく考えてみてください。
 
富田先生は、これら3つをバランスよく、と考えていたときに、河合隼雄先生のことばと出逢います。
 
「西洋の神話というのは、一人のカリスマが立ってそれを支えるかたち」
「日本の神話は、二人のカリスマを並び立たせるために、真ん中が引くかたち」
 
この見地に立てば、「できているほうと、できていないほう」が重要なのではなくて、どちらにも当てはまらなかった「真ん中」が実は一番大切であるということになります。
スッと弱く消えている「真ん中」を鍛えると、和の心はバランスよく育まれるのです。

 
 
●ツクヨミの存在

ご存知の通り、イザナギからアマテラス・スサノオ・ツクヨミの3人が誕生します。
でも、古事記には、ツクヨミの話はほとんど出てきません。
アマテラスとスサノオはキャラが強く、しかし、この二人のよさを際立たせるために、ツクヨミが一歩引いてあげている役割を担っているからです。
   三種の神器(注;「しんき」と読みます)
     アマテラス;素直な心の象徴;鏡
     スサノオ;困難に挑戦する心の象徴;剣
     ツクヨミ;思いやり;勾玉
なぜ勾玉が思いやりなのか。
唯一他人がいないと成立しないのが、「思いやりや優しさ」ですよね。
勾玉というのは、共同作業の象徴的なアイテムであったそうです。
「共同」、つまり相手が必ずいるということだから、勾玉は、「思いやり」になります。
富田先生は、こういうことがしっかりと分かってくると、いろんなことがうまくいき始めたと振り返ります。
 
多額の負債を抱えていたお会社の経営状態は、一向に改善しなかったときのことです。
富田先生は、「自分は『思いやり』が強いな」と思っていたそうです。
そこで、足りなかった「困難に立ち向かうこと」に目を向けてみます。そして、挑戦的な行動に出られます。
最悪の経営状態の中、全取引先に対する値上げに踏み切ったのです。
なんと、全商品40%の値上げ。
当然のことながら、9つあった取引先のすべてから、契約を打ち切ろうか、と言われたそうです。
どうせ、「今つぶれるか、3年後つぶれるか」のどっちかなら、今やろうと思ったと力強く仰っていました。
結果的には、9つすべての取引先との商談が成功したそうです。
この3つのバランスをとることが、現実世界に大きな影響を及ぼすのだと実感したエピソードの一つです。
 
それからは、この3つの心を、具体的な経営用語に置き換えて、徹底して実行されました。
日本人の行動の原理原則が神話から来ているのなら、そこを計画書に埋め込んでいけば、当然社員もお客さんもよくなるに決まっているという考えの下で。
この3つがあれば、個人としてのパフォーマンスも上がる。チームとしてのパフォーマンスも上がる。
和の心を意識した経営計画や行動計画をつくることを加速されます。

 
 
●3回やってかたちになるのがホンモノ

基本的には、古事記の世界観から見れば、仕事は選べないらしい。
目の前の仕事を全力でやるほかなく、天命は人間ごときには得られないものなのです。
スサノオは、姉のアマテラスを怒らせて、普通の人間に戻されてしまいます。
そして、ヤマタノオロチ対峙のために、元神様のスサノオが人間を助けにいくわけです。(目の前のことに全力で当たっていった)。
その結果、スサノオは、剣を得、クシナダヒメを妻にすることができました。
クシナダヒメがすごいのは、オロチと闘う前に、スサノオと結婚したことです。
何の結果の保証もない中で、目の前のことを全力でやる人間を選択をしたのです。
女性の皆さん、クシナダヒメを見習いましょう、とのことでした(笑)。
 
このように、自分の能力の如何を問わず、「目の前のことは全力でやる、今あるもので戦う」ということが、基本的な労働観としてあるのであろう。
しかし、全力でやっても、どうしてもダメなこと、ダメなものはあります。
全身全霊をかけてもダメなら、それはあなたの仕事ではない、ということもまた古事記には書かれています。
「覚悟をもって3回やって、結果が出なかったら、それは、あなたの領分ではないのですよ。」と。
企業なら、3回も失敗していたら、つぶれます。
一方で、失敗したときに、せっかく積み上げてきたものが全部崩れて、また振り出しにもどった!というような失敗は「筋がいい」そうです。
これは、チャンス到来。2回目にいったときに、またドカーンと失敗する。ここまできたら、もう成功はすぐそこなのだそうです。

 
 
●「祭りのように仕事をしなさい」

ある目的を達成するために、神様は全員で協力します。神様が分業して仕事をするのです。
「役割」を決めると全体が調和するということの例です。
でも、弱い人間が集合して祭りをしてもダメです。これは傷のなめ合いになるからです。
覚悟を決めた人たちが、集合し、祭る。「計画を超える結果」を出すために必要なのは、祭りをすることなのです。

 
 
●英雄(ヒーロー)

神話学者、ジョセフキャンベルの紹介もありました。ここでは「英雄」の定義が紹介されました。
英雄とは、「何かを成し遂げた者ではなく、新しい世界に立ち向かった者」であると。
英雄とは、自分の心地よい慣れた世界から、一歩外に出てチャレンジしてみることができる人です。
自分の経験の外側に入っていくには勇気が必要です。
その新しい世界が、どんなものかはわからないのに、挑戦してみる。
自分だけが成長するのではなく、自分が得たこと(知識)を仲間と共有する。
これが、英雄の行動なのです。
人の世界を広げてあげて、その人の可能性が広がり、新たな世界を見ることができます。
神話をベースにこういう行動をとると、原理原則からずれることなく、「魂の成長」が得られるのだと、富田先生は解説します。

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